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西村晃の路地を曲がれば、もう旅人

第43回 5月 変貌する渋谷から下北沢へ 時代またぎの散策

渋谷は私のホームグラウンドである。

いやそのつもりだった。
子供の頃世田谷に住んでいたから、買い物やレジャーはバスで行く渋谷だった。
初めてのデートも渋谷、通った高校も渋谷のそば、勤めた職場は渋谷のNHK、嫁さんの実家も渋谷区だった。
かつて「シブヤ系経済学」という本も書いている。

その渋谷が縁遠くなった。
とくにここ20年は近寄りがたく、むしろ避けている街だ。
若者の街過ぎた。
喧騒の街、渋ガキ隊の街、ガングロの街・・・・。
ハチ公前の交差点に立てば360度空から降ってくる大音量の宣伝。
世界から集まる観光客はともかく、普通に買い物をし街歩きを楽しみたい大人が敬遠するのも当然だろう。
だから人出の割には地元商業者たちは、若者化現象をもろ手を挙げて歓迎していたわけではなかった。
人が集まる割には購買金額は伸びないのだ。
渋谷の後背地は日本屈指の富裕層が集まるエリアなのに、そうした人たちが買い物をするラグジュアリーな空間が渋谷にはなかった。

その渋谷が大変貌を遂げようとしている。
旧来の渋谷駅は東急百貨店東横店のビルに隣接して2階に山手線、東急東横線、3階になぜか地下鉄の銀座線が発着していた。
まず東急東横線が2013年に地下5階に潜った。
同時に東口に巨大なビル「渋谷ヒカリエ」がオープンしたのがいわば一期工事だった。
また東横線のかつての線路跡地を利用して地上35階建ての再開春ビルがオープンし、IT企業グーグルなどがオフィスに入った。
ここは渋谷川を再生して取り込むというコンセプトから「渋谷ストリーム」と名付けられた。


左から渋谷ヒカリエ、ストリーム、スクランブルスクエア

そして2019年末の完成を目指して現在ヒカリエと山手線ホームの間に建設中なのが「渋谷スクランブルスクエア」の東棟である。
スクランブルスクエアは最終的には東棟、中央棟、西棟の3本のビルになる。
中でも先に出来上がる東棟は地上47階地下7階で高さ230メートルとなり、184メートルのセルリアンタワー、183メートルの渋谷ヒカリエを上回り渋谷の最高峰となる。
高層階はオフィス、中低層階は商業施設で、2027年度完成予定の地上10階地下2階の中央棟、地上13階地下5階の西棟を含めるとおよそ7万平方メートルになる。
2019年度中に地下鉄銀座線のホームが、このスクランブルスクエア東棟に移設される。


銀座線新渋谷駅は建設中に渋谷スクランブルスクエア東棟に入る

変わりゆく渋谷駅周辺の写真を撮影してから、明治通りを北に向かって歩く。
これまで渋谷といえばハチ公前交差点の付近がシンボルだった。
しかし現在建設中のビルが完成してくると、山手線内側の明治通り沿いに街の重心が移行してくるはずだ。
間もなく完成の「渋谷スクランブルスクエア 東棟」は、明治通りの上にそびえることになる。
そこから南方向へは旧東横線線路沿いの「渋谷ストリーム」、さらに代官山や恵比寿方向へ明治通り沿いに今後再開発が進みそうだ。
そして今私が歩いている北方向の先には、表参道周辺のショッピングゾーンがある。

山手線とほぼ並行しているこの明治通り沿いではいま「新宮下公園等整備事業」が進んでいる。
かつての宮下公園が老朽化したのに伴い、その敷地にビルを建て屋上を新公園にする計画が進んでいる。
建設中のビルは2棟あり、南棟が地上5階 北棟地上18階地下2階 地下は新渋谷駐車場となる。
そして低層階は商業施設、公園の北側にはホテルもできる予定だ。
ビルの屋上が公園となり山手線と並行して緑地帯が整備され、新宮下公園となり2020年3月に完成する予定だ。
これができると明治通り沿いが一気に活気づくはずだ。
渋谷から表参道へ、ハチ公前やセンター街とは違う大人の買い回りゾーンが生まれるわけだ。
「若者の海、埋め立て計画」が着々と進むと予想する。


山手線と並行して工事が進む新宮下公園整備事業

渋谷はこれまで若者の街と呼ばれてきた。
世の中には若者が集まらない街が多いのだから、若者の街が悪いわけではない。
しかし可処分所得が極端に少ない若者ばかりが集まる街ではやはり街の発展性には問題が残る。
渋谷はそういう街になっていた。
かつて渋谷より先に新宿の方が若者の街と呼ばれた時期があった。
しかしその後新宿には都庁をはじめ超高層ビルの街が出現し40万人以上といわれるオフィスタウンが出現、ネクタイとハイヒールでこの街に毎日来る人が激増した。
その点渋谷は若者が全国から遊びに来る街ではあっても、ネクタイとハイヒールが働く場所がそれほど多い街ではなかった。
その渋谷に近年高層ビルが次々に建設され、大手企業がオフィスを構える街に変わり始めたのである。
当然購買力が上がる。
おしゃれな街を受け入れる人口が増え始めている。
渋谷の大変動を予感する。

明治通りから山手線のガードをくぐり、勤労福祉会館前交差点から公園通りに入る。
この交差点でも工事が進む。パルコの建て替えだ。
道路を挟んで向かいにもかつてパルコの別館があったが、耐震構造問題で閉鎖された後ホテルに立て替わった。
坂を上ってゆくと左側に建て替えられた渋谷市役所の庁舎が見えてくる。
その隣で建設中なのは2019年秋に完成予定の新渋谷公会堂だ。
旧公会堂はもともと1964年の東京五輪の際に建設され重量挙げの競技会場となった。
その後2000人収容のコンサートができる公会堂として長年親しまれたが、老朽化により今回全面建て替えになった。
渋谷区役所と交差点を挟んで向かい側は国立代々木競技場の二つの体育館があり、オリンピックに向けて改装中だ。
その隣がNHKである。


立て替えられた渋谷区役所と渋谷公会堂

昭和39年1964年の東京オリンピックではまさにこの界隈が大きく発展した。
いまでこそ世界に知られる渋谷も55年前の東京オリンピックまでは駅周辺の谷底の限られたエリアの繁華街にすぎなかった。
ところがオリンピックの水泳、バスケットボール、重量挙げの競技施設が相次いで建設され、内幸町からNHKがこの地に移転してきた。
代々木公園には選手村もでき、大きな人の流れができた。
そしてオリンピック後に渋谷に西武百貨店が誕生、隣接してパルコもオープン、渋谷駅からNHK方面に連なる坂道は「公園通り」と名付けられた。

今回のオリンピックではかつてのプールとバスケットボール会場は大改装されハンドボール会場とパラリンピック会場になるそうで、現在工事が進んでいる。
56年がたち、再びこの界隈も人々の注目を集めようとしている。

NHKと代々木競技場の間を抜けて代々木公園に向かう。
新緑の美しい晴天の休日とあって家族連れや若者のグループがたくさん詰めかけていた。
弁当を広げる人、スポーツを楽しむ人、芝生でインスタ映えするポーズで自撮りに興じる人・・・。
思い思いの時間を過ごしていた。


改装工事中の代々木体育館

公園を抜けて明治神宮へと向かう。
今日は4月28日。
平成最後に明治神宮の御朱印をもらっておこうというのが本日このコースを選んだ理由でもあった。
久しぶりの明治神宮は、お天気も良くまた時代変わりのこの時期にお参りを考える私と同じような人が多いためか相当混んでいた。
玉砂利を踏みしめ行列が続く。それにしても外国人が多い。
ざっと見て参拝客の半分以上だろう。
参道に立ち止まり記念写真を撮っている人はほぼ全員外国人だ。
お神酒の酒樽がずらり並ぶ風景は格好の被写体のようだ。


外国人にも人気の明治神宮

鳥居をくぐり、本殿前に到達する。
厳かな気分で平成の時代のお礼と、新しい時代の健康を祈る。
一礼して、さてと・・・。
御朱印をもらう場所が分からない。
警備員を見つけて尋ねると社殿の裏側に行列ができているという。
教えられた場所には確かに長い列が連なっていた。
3時間待ちという。
それでもみんな根気よく文句を言うでもなく、粛々と並んでいた。


ようやく御朱印をいただく順番が近づいた

ちなみにこれは4月28日のことで、令和初日の5月1日は10時間待ちになったようだ。
待ちわびる人を神職が10人ほどでさばく。
ようやく手にした御朱印だからこそありがたさも増すということか。
本殿を離れ、帰路は原宿からの正面参道ではなく、小田急線参宮橋方面に通じる西参道を選んだ。
神宮の自然を満喫しながらの帰路、こちらは人も少なく鳥のさえずりと若葉のシャワーを浴び幸せな気分を味わうことができた。

小田急線の各駅停車の駅、参宮橋を利用するのは久しぶりだ。
小田急線は複々線化工事が完成し、車窓からの沿線風景も一新している。
参宮橋から乗った電車は代々木八幡、代々木上原を経て、地下に潜って東北沢、下北沢と地下ホームに入る。
下北沢では急行と、各駅停車では発着するホーム階が異なり久しぶりに降りた私は周囲をキョロキョロする。
地下に潜った小田急線に対して京王井の頭線は高架の上を走っているから、駅全体として大きく立体構造になったわけだ。
一日も電車を止めずに複々線化を行い、ホームを地上から地下へとおろす。
鉄道会社の工事技術にはいつも驚かされる。

下北沢は、小劇場やライブハウスが集まる個性的な街だ。
電車で10分前後の所に渋谷と新宿があるからどこにでもあるナショナルチェーンの店ばかりだとわざわざ人が行く街にはなりにくく、単なる通過駅になりがちだ。
下北沢の場合、駅周辺の商店街にはそうしたナショナルチェーンもないわけではないが個人経営の飲食店や雑貨店、ブティックなども健在でそれが雑多な街の魅力を創出している。
電車に乗って遠くから来る人と、自転車や徒歩圏から来る人が混在しているところもこうした商店街が成り立つには欠かせない要素となる。
普通の私鉄沿線の住宅街だと、生活に必要なスーパーやドラッグストアに金融機関、医者に学習塾と店舗構成が画一化して面白みがなくなる。
下北沢はそんな街からは明らかに抜け出た魅力がある。

さてランチをどこで食べようか。
若者の街だからか、ラーメンやエスニック系の店が目立つ。
店頭でカレーパンを売っている店に人が並んでいた。
よく見るとカレーパンのテイクアウトだけでなく、食事ができる店で様々なカレーのメニューがショーケースに陳列されていた。
幸い店内は席が開いているようなので迷わず中に入る。
カレーの専門店「天馬屋」という。


下北沢カレーの店 天馬屋

注文したのはバターチキンカレー950円にサラダ・ドリンクのセット380円。
ドリンクはマンゴーラッシーにした。
コクのあるソースは口の中に染みわたり、まろやかさを感じる逸品だった。
味も量も十分に満足できるもう一度食べたいと思わせる店だった。


バターチキンカレーセット

下北沢の街をぶらつく。
駅裏のフリーマーケットでは古本から中古雑貨にレコードなどが売られていた。
休日の午後を思い思いに楽しむ人たちの年齢層が意外に広いことも驚きだった。
若者の集まる店に子供を連れた若い夫婦も交じっていたりする。
フリーマーケットの出品者は若者だが、それを覗き込んでいるのは年配の人だった。


下北沢のフリーマーケット

疲れたので駅に戻り今度は井の頭線に乗る。
昔は狭いホームでラッシュ時には危険を感じることさえあったが、改良工事で面目を一新していた。
下北沢から渋谷までは各駅停車でも10分かからない。
住宅街の狭い空間を線路が駆け抜けてあっと言う間に終着渋谷だ。
東横線、副都心線、田園都市線の駅が地下にあるうえ、銀座線の駅もまもなく移動すると井の頭線の駅との連絡はますます遠くなる。
改めてそれを確かめながらハチ公前の交差点へとでた。


改良工事された井の頭瀬下北沢駅

今や世界一有名になったと言われるこの交差点は休日の午後は人で埋まっている。
信号が青になると横断する人に加えて人の流れを背景に記念撮影する観光客も加わり、人が激しく交錯する。
みんなそれを喜んでいる。人ゴミのシャワーを浴びているようだ。

このハチ公前の喧騒と、新しくできゆく立体的な街並みがブレンドされ新しいシブヤが令和の時代にどんな発展を見せるか興味深い。


賑わう渋谷スクランブル交差点