
もとフランス会席料理オーナーの自宅がいまや名古屋の若者の人気スポットになっている。
「心に響く引き出物」は、モノではなく至福の時間を列席者に提供。
ここでしか味わえない「夢と感動」を伝説化。
ハウスウエディングの温かさを提案する「翔風館」。
「それでは、新郎様新婦様よりみなさまへ心に響く引出物をお送りしたいと思います」
披露宴のクライマックスだ。
ひな壇の横で控える北澤智恵さん、表情こそ笑顔のままだが、緊張した小声でインカムからスタッフに指示を送る。
「心に響く引出物」とは、名古屋でハウスウエディングを行っている「翔風館」が用意している披露宴を盛り上げる演出のことだ。
「お客様全員に満足いただくモノを選ぶことはなかなか難しい時代です。そこでお越しいただいたお客様全員にお贈りする”感動”を引出物の新しいかたちと位置付けました」
北澤さんはこう説明する。
「翔風館」には160種類ほどのメニューリストが用意され、さまざまなジャンルのプロの宴者が並ぶ。京都から舞妓さんを呼ぶ、ピエロ、マジック、早書き似顔絵、フラメンコ、祝い餅つき、落語、ハンドベル、津軽三味線・・・・・。
価格はそれぞれ異なるが、「翔風館」で結婚式をしたいというカップルはこれがお目当てだから、ほとんどが何かを選択する。
この日のカップルが選んだのは「沖縄の三線(さんしん)」だった。新婦が沖縄出身であるため、わざわざ遠路沖縄から名古屋に駆け付けた列席者も多く、郷土の調べに感動し、新郎家との交流も大いに進んだようだった。
「翔風館」は、名古屋から名鉄電車で7分ほど、上小田井という住宅地の中にある。こんな静かな住宅地に結婚式場が?と驚く場所だ。それもそのはず、もともとはオーナーである伊藤勝正さんの自宅であった。伊藤さんは近くでフランス料理レストランを営んでいたが、人気店とはいえ企業の交際費削減などの影響をうけ、レストラン23年の歴史に花幕。早速次の戦略を練った。
「私の住宅は木造2階建てで階段部分の吹き抜けを大きくとってある上、比較的広い洋間があり、知人から結婚式をやらせてほしいという依頼を何度か受けていました。ハウスウェディングへのニーズはありそうだし、料理はもともとお手のものだから、これを本格的なビジネスとしてやってみようと決断したのです」
伊藤家は引っ越し、多少の増築改装を加えて、かつての住まいは「翔風館(しょうふうかん)」と名づけた東海地区発のハウスウェディング会場として生まれかわった。
「これまでの結婚式では「ハウスウエディング」という形式はなく今までにない結婚式の形を提案すれば、きっと受け入れられる。一日一組・おもてなしの第一は美味しい料理とアットホームであること」伊藤さんは考えた。
「結婚する二人の要望や希望を容(かたち)にすることなど新郎新婦が中心でゲストが本当に満足される演出をスケジュールに組み入れ「翔風館」で挙式してよかった。そしてスタート地点にしてよかった。と完全に満足していただける新しいハウスウエディングの容(かたち)の提案をし続けてきました」
「結婚式ビジネスのポイントはソフトに尽きる」と語る伊藤さんにとって、何よりの「ソフト」は北澤さんかもしれない。最初はパートで手伝いに来ていた北澤さんのソツのない応対や、誰をも安心させる笑顔、そして何よりアイデア豊富な企画力を評価、ついには社長の椅子も譲ってしまった。
「翔風館」は一年に100組を超えるハウスウェディングを受注し好調に業績を伸ばしている。
「市場が狭くなるからこそ特徴を出していかなければなりません。個性を演出する提案があればお客様は集まります。新郎新婦にモデルあるいはスターになっていただく。モデル専属の美容師にヘアメイクをしてもらい列席者にもディナーショーと位置づけてパーティーを楽しんでいただきます。感性を磨き提案を続ければビジネスは拡大できるはずです」
伊藤さんの後を継いだ北澤さんは若い女性中心のスタッフをまとめ先頭に立つ。「夢と感動をお客様に提供したい」と北澤さんはほほ笑んだ。