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「ヤキューの神様」で地域おこし

埼玉県東松山市で地域おこしに取り組む油販売業「津乃国」の鈴木永治さんは地元の神社にあやかった「いなり寿司」をつくったり、「夢灯路」というイベントを始めるなど様々な仕掛けつくりに奔走している。

津乃国

埼玉県東松山市は人口9万人ほど。
東武東上線で池袋から一時間ほどの「下りの地」である。
駅に降り立っても寂しい商店街があるだけ。「埼玉都民」は大きな買い物の時は池袋など「上り」に行くか、街道筋のショッピングセンターへ行ってしまう。駅前商店街にはコンビニや居酒屋はあっても、生鮮三品がそろう個人店もなく、地元の人はスーパーに行く以外に消費の選択肢は乏しい。
けっして人口が激減している地方都市の話ではない。東京周辺のベッドタウンでさえも街の風景はどこもこんな状況だ。
寂れる街に活気を与える方法はないか。
地元の商業者たちが、なんとかしたいと立ち上がった。

桜も咲かない寒い時期に観光で経済を成り立たせている京都が、「花灯路」と称して、円山公園一体に灯路を並べて管弦のコンサートなどを催し、普通ならオフシーズンの三月の夜に集客している。素晴らしいマーケティングセンスではないか、と私がこの地の講演で話したら、有志が京都を視察し自分たちも始めたいと言い出した。

最初の試みは、3月でまだ寒すぎたし、一生懸命やる人の人数は限られ、商店街も冷ややかだった。しかし、粘り強く改善を重ねて今年は4月の第一土曜日日曜日に6回目を開いたが、いまや町をあげての祭に成長している。
桜が満開の男沼公園と女沼公園という二つの公園とその真ん中に中央会場を設け、それぞれの会場でハワイアンや和太鼓などの演奏を楽しむ人たちが集まる。
その人たちに提供する飲食の露店も増えた。一般の商店も出店を出して呼び込みの声をあげている。やはり人が集まればビジネスチャンスと、みなが考え始めたようだ。
灯路は、企業はもちろん個人からも二基5000円で協賛を募る。最初の年は500基だったが、いまや1200基と倍増した。

このイベントに合わせてまちおこしグループが注目したのが、古くから地元で信仰を集める箭弓(やきゅう)神社だった。
駅から歩いて5分程の地に広い境内をもつ神社だ。
箭弓(やきゅう)神社には武運を祈る故事があるが、読み方からして野球選手が必勝祈願に訪れることが多かった。
そこで野球絵馬やバット絵馬などを作ったところ三が日に23万人を集めるなどこのところ参拝客を増やしている。
そこで地域起こしの仲間が宮司と話し合い「箭弓のいなり」を発売、三が日で1000個、また今回の夢灯路でも同じくらい販売した。
あえて東松山に「下らせる」のに神社仏閣の役割は欠かせない。
残念ながらこれまで東松山の商店街自身にはあまり魅力的な店がなく、せっかく「箭弓神社めざして下ってきた人」に食べてもらったり、買ってもらう商品が見当たらなかった。
「うちは地元のみなさんにご利用していただきたいと考えています。求められれば、いろいろ協力させていただきたい」
箭弓神社の宮司澤田昌生さんは、地域に果たす神社の役割をよく認識しているようだ。

全国に1万8000あまりあるといわれる商店街で、比較的元気に生き残り、広域集客をしている商店街には門前町が多いという事実は注目に値する。
巣鴨とげぬき地蔵通り、鎌倉小町通り、長野善光寺通り、伊勢おはらい町などを見てほしい。そしてまちおこしには、あるいは「あえて下らせる」ためには、やはり何らかの仕掛けが欠かせないのだ。

今後の課題としては、この町に多い焼き鳥屋の利用だ。これまでは市民以外の人をマーケットとしては考えていなかった。
さらに神社の境内や駅から神社に通じる参道を活用する必要がある。
たとえば骨董市、あるいは植木市など特徴ある商品を集めた市で東松山に人を寄せ集め、その周囲にそれこそ自慢の焼鳥の屋台を並べるのだ。
あるいは境内を利用したコンサートや日曜日のラジオ体操大会と朝採れ野菜市を絡ませてもいい。つまり店を新たに建設したりする設備投資を抑え、集客の機会を創り出すわけだ。

大切なことは、こんにちの消費者はもともと欲しいものなどないと認識することだ。
大型ショッピングセンターといえども買い物を山ほどする人はいない。敢えて言えば「楽しい時間という商品」を買いに行くのだ。
ならばまちおこしも楽しみを提供することをまず考えればいい。
「縁日そぞろ歩き風、仲見世冷やかし風」の消費者だからこそ箭弓神社の境内は市民マーケットの舞台として期待できる。

地域おこしに取り組む「津乃国」の社長、鈴木永治さんは、「うちは代々続いたガソリン、灯油、工場用油の販売業と、テナント貸しの不動産業ですがやはり街が元気でないと売り上げは上がりません。夢灯路と箭弓のいなりの成功は大きな自信になりました。これからも次々に仕掛けていきます」と意気込んでいる。

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