
社会の変化で葬儀に対する考え方が変わる中で新しい葬儀のあり方を提案したいと「ニチリョク」が始めた「ラスト・ホテル」、「ラステル久保山」は、 開業以来利用者が急増している。
いまなぜ「ラスト・ホテル」なのか?
マンション暮らし、高齢化、核家族化などを背景に新しいニーズがあった。
横浜市西区。
住宅が立ち並ぶバス通り沿いに2010年6月「ホテル」がオープンした。
「ラステル久保山」。
ビジネスホテルあるいはラブホテルとも間違える人もいるかもしれない外観だが、実はこの「ホテル」、日本で初めての「遺体のホテル」なのである。
遺体と遺族が最後の別れをする「ラスト・ホテル」が、名前の由来だ。
「高齢化が進み、80歳を過ぎて亡くなる方が増えています。社会の第一線を離れてずいぶん時間がたちますから、親族だけでひっそりと葬儀を行いたいという希望も増えています。またマンション生活などで近所付き合いも希薄になり、葬式をしていると知られたくないという人も多くなっています。そうしたニーズに対応できる家族葬の場所が必要だと考えました」
「ラステル久保山」を経営する「ニチリョク」の社長、寺村久義さんはこう語る。
この考え方のもと、まず遺体搬送に霊柩車は使わない。
火葬場に親族を運ぶマイクロバスの後部を改造、遺体を収納できるようにした。
マイクロバスをエントランスに横付けすれば、外部からは見えないまま遺体を搬入できる。
火葬場まで故人と遺族が同じ車で向かうことができることにもなる。
カードキーの操作で冷蔵室に安置されている遺体が面会室に自動搬送され、家族は24時間いつでも面会できる。
4部屋ある斎場は一部屋が10畳ほどのスペースで、遺体の安置だけなら一泊1万2600円、葬儀をせず直接火葬場に向かう直葬は31万5000円から、家族葬は56万2800円からと、これまでの常識から考えるとかなり安い価格設定がなされている。
「これまでの葬儀費用は、葬儀社側のいいなりでした。病院で死亡すると、短時間で病院指定の葬儀社が搬送するのが普通です。動転している遺族に価格交渉力はなく葬儀社の提示する価格が安いか高いかを考える余裕もない。葬儀費用のかなりの部分は香典で賄われてきたことをいいことに葬儀社本位に相場は作られてきました。だからお年寄りは、葬儀なんかしてくれなくてもいい、後に残る遺族が気の毒だと言う人も出てきました。そうした現状にラステル久保山が風穴をあけることになればと思いました」
寺村さんはこう説明する。
確かにこれまでの葬祭場は大人数を前提に造られていたから、家族葬には向いていないし、費用も小規模葬儀には対応していないはずだ。
ニチリョクはこれまでも様々な葬儀や墓石販売、霊園開発といったビジネスを手掛けてきた。
なかでもユニークなものに堂内陵墓というものがある。
これは自動搬送式倉庫の原理を応用し、礼拝堂の前でカードをかざすと、コンピューター制御で自分の家の遺骨が呼び出せるというものだ。
一つの堂内陵墓の中に数千の遺骨を収納できるから、墓地の土地や墓石を購入する必要がないため80万円前後の負担で墓を購入できる。
このため交通の便利の良い都心でも墓を提供できるうえ、ひとつの建物の中で葬儀、法事、食事も可能となった。
寺村さんは大学の理工学部出身で、アイデアを実現するための機械の開発を積極的に進めてきた。
ハードウェアの開発とサービス業としての接客ソフトを組み合わせて遺族の目線に合わせた提案を続けてきた。
「ラステル久保山」は開業以来問い合わせが殺到、葬儀件数も着実に増加している。
寺村さんが見据えた市場は確実に広がっているようだ。